歩きづらい
「歩く」という動作は、脳の指令とそれを筋肉に伝える神経の働きが必要です。歩きづらいという症状は、脳、神経、筋肉、骨のどこかに障害が起きていることになります。
歩行障害は、その原因により治療法が異なります。足や股関節などの問題だけでなく脳や脊髄などが関係していることもあり、脳梗塞・脳出血・脳腫瘍などの重大な病気が隠れていることもあります。当院で原因を調べますので、自己判断せずにご相談いただければと思います。
歩行障害の症状
- つま先を引きずって歩く
- 小刻みにしか歩けない
- ふらふらとしていて、歩行が不安定
- 突然、左右の足が動きづらくなった
- まっすぐ歩けない
- 歩き出そうとすると、一歩が出にくい
- 少し歩くと足が疲れてしまい、歩けなくなる
- 足がつっぱって歩きにくい
歩きづらさについて
歩行障害は主に、「脳が原因のもの」「神経細胞の変性が原因のもの」「首・腰が原因のもの」に分けられます。
脳が原因のもの
脳に異常があって生じる歩行障害です。緊急性が高いものも含まれます。
※めまいが突然起こってだんだん強くなる場合や、強い頭痛、麻痺、力が入らない、喋りづらいなどの症状を伴う場合は、脳血管障害(脳卒中)の可能性があるため、ただちに受診してください。
疾患例
脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、正常圧水頭症、多発性硬化症など
神経変性疾患が原因のもの
何らかの原因で神経や筋肉が障害され、歩きづらくなります。
疾患例
パーキンソン病、パーキンソニズム(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症)、脊髄小脳変性症、ギラン・バレー症候群、筋委縮性側索硬化症(ALS)など
首・腰が原因のもの
首の異常で脊髄や神経根を圧迫されたり、腰の末梢神経が障害されたりすると、歩きづらくなります。
疾患例
頚椎症、腰部脊柱管狭窄症(間欠性跛行)など
その他の疾患が原因のもの
股関節、膝、足関節などに問題がある場合、内分泌・代謝疾患や循環器疾患が原因で末梢神経や筋肉が障害されると、歩きづらさが生じます。
疾患例
変形性関節症、低カリウム血症、閉塞性動脈硬化症など
当院の治療
当院は、脳と脊髄・脊椎、末梢神経、筋肉の治療を専門としています。
診断の結果、手術や入院が必要な場合は専門病院に、循環器内科、整形外科などの他科受診が必要な場合は地域の専門医を紹介させていただきます。
脳が原因のもの
脳梗塞
脳梗塞とは
脳の血管が詰まってしまう疾患で、特に高齢の方に多くみられます。
脳梗塞の症状
- 片方の手足の麻痺やしびれ
- 力が入らない
- 喋りづらい
- フラフラする
- 視野が欠ける
- 人の言っていることが理解できない
- 意識がない
脳出血
脳出血とは
脳の中の細い動脈が何らかの原因で破れて出血する疾患です。
脳出血の症状
- 経験したことのないひどい頭痛
- 体の片側の麻痺やしびれ
- 顔のゆがみ
- 力が入りにくい
- 喋りづらい
- フラフラする
- 視野が欠ける、物が二重に見える
脳腫瘍
脳腫瘍とは
頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称です。
悪性のものと良性のものがありますが、良性であったとしても、硬い頭蓋骨の中には腫瘍が膨らむスペースがないため、重篤な症状を引き起こす恐れがあります。
脳腫瘍の症状
- 頭痛が続く
- 吐き気、嘔吐
- めまい
- 視力低下、視野が欠ける、物が二重に見える
- しびれ、手足や顔の麻痺
- 言葉が出てこない
- 聴覚障害
- ふらつき、力が入らない
- けいれん
正常圧水頭症
正常圧水頭症とは
脳内の脳脊髄液が過剰になり、認知機能低下や歩行障害、排尿障害を起こす疾患です。
正常圧水頭症による認知機能低下は、治療で改善させることができます。
正常圧水頭症の症状
- 両足の左右の間隔が広がり、歩行が小刻みになる
- 集中力や意欲の低下、情報処理能力の低下、もの忘れ
- 頻尿、尿漏れ、失禁
多発性硬化症
多発性硬化症とは
中枢神経系(脳・脊髄・眼)が障害される自己免疫疾患と言われています。
神経線維を覆う髄鞘が炎症を起こして破れることで神経の信号伝達が阻害され、様々な症状が現れます。
多発性硬化症の症状
- 手足のしびれ
- まっすぐ歩けない
- 物が二重に見える、見えにくい、視野が欠ける
- 疲労感
- 筋力低下
- 頻尿、尿漏れ、失禁
- 認知機能の低下
神経変性疾患が原因のもの
パーキンソン病
パーキンソン病とは
パーキンソン病の4徴は、「静止時に手足が震える」「筋肉が固くなる」「動作が鈍くなる」「転びやすくなる」です。
原因は、神経伝達物質のドパミン神経細胞の減少です。ドパミンが減少すると、運動がうまくできなくなります。不足したドパミンをお薬で補充することで、症状の軽減が期待できます。
パーキンソン病の症状
- 止まっているときに、手・足・あごなどが震える
- 手足がこわばって曲げにくい
- 動き始めるのに時間がかかり、ゆっくりとしか動けない
- 転倒しそうになったときに、とっさに手や足が出ない
- 小声、声がれ、喋る速度が単調になる
- 認知機能の低下
進行性核上性麻痺
進行性核上性麻痺とは
脳の中の大脳基底核、脳幹、小脳の神経細胞が徐々に減少する疾患です。
進行性核上性麻痺の特徴
パーキンソン症状に加えて、下記の症状がみられます。
- 転倒しやすくなる
- 眼球を上下に動かしづらい
多系統萎縮症
多系統萎縮症とは
小脳、大脳基底核、自律神経などの神経系の複数の系統の状態が変化したり、その一部が小さくなったりすることで、運動障害や自律神経障害などの様々な症状が出現します。
多系統萎縮症の特徴
パーキンソン症状に加えて、下記の症状がみられます。
- 頻尿や尿漏れ
- 起立性低血圧
- 発汗低下、体温調節障害などの自律神経症状
- ふらつき、歩行不安定
脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症とは
小脳の主な役割は、運動と知覚の統合、平衡感覚や筋肉の緊張と動きの調整など、運動がスムーズにできるように調整することです。そのため、小脳の細胞が徐々に減少すると、うまく運動ができない「運動失調」という症状が現れます。小脳だけでなく、脊髄にも異常がみられることがあります。
この運動失調をきたす病気の総称を「脊髄小脳変性症」といいます。原因によって症状や治療方法が異なるため、原因を特定することが重要です。
脊髄小脳変性症の症状
- 歩くときにふらつく
- バランスがとれずにふらふらする
- 手が震えてうまく使えない
- 口や舌がもつれてうまく喋れない
- 足がつっぱる
ギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群とは
ウイルスや細菌などによる感染症にかかった約1~4週間後に、手足に力が入らない、感覚がわかりにくい、しびれるといった症状が出現する、末梢神経障害です。
感染症を発端に免疫の動きが活発になった結果、自己免疫が自身の末梢神経を攻撃してしまうためだと考えられています。
ギラン・バレー症候群の症状
風邪や下痢などの感染症にかかった後に、以下の症状が現れます。
- 手足の力が入りにくい
- 手足のしびれ
- 手足の痛み
- 顔の筋肉や目を動かしにくい
- 物を飲み込みにくい
※症状が悪化すると、呼吸が苦しくなります。
筋委縮性側索硬化症(ALS)
ALSとは
脳や脊髄の筋肉を動かすための神経が障害を受け、筋肉が徐々に弱くなっていく疾患です。
手の指を動かしにくい、喋りづらい、物を飲み込みにくいなどの症状から始まり、やがて全身の筋肉がやせてしまい、呼吸のための筋肉が動かなくなって、多くの方は呼吸不全に至ります。
ALSの症状
- 手の指が動かしにくい
- 手足の筋肉がやせる、力が弱くなる
- 物を飲み込みにくい
- 喋りづらい
首・腰が原因のもの
頚椎症
頚椎症とは
首の骨(頚椎)に生じる関節症です。加齢により首の関節(椎間関節)が痛むことが原因です。
加齢により、首の関節が不安定になったり、骨の間のクッション材である椎間板がつぶれたり、骨の出っ張りができたりすると、首の関節をつなげる靭帯が厚くなるほか、飛び出した椎間板や骨の出っ張りが脊髄や神経根を圧迫してしまいます。これを頚椎症といいます。
脊髄が圧迫される「頚椎症性脊髄症」と、神経根が圧迫される「頚椎症性神経根症」に分けられますが、高度の脊髄圧迫が加わった「頚椎症性脊髄症」ではと歩行障害を来すことがあります。
頚椎症の症状
頚椎症性脊髄症
- 手のしびれ
- 手を使いにくい
- 歩きにくい
- 歩くときにふらつく
※進行すると、足や体幹のしびれも生じます。
頚椎症性神経根症
- 首から肩甲骨にかけての部分から腕や手にかけてのしびれ、痛み
- 手に力が入りにくい
- めまい
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは
加齢により背骨が変形して腰椎部の神経の通り道が狭くなり、その中を通る神経が圧迫されて、足のしびれや痛み、筋力低下が生じる疾患です。代表的な症状に間欠性跛行があります。
腰部脊柱管狭窄症の症状
- 足のしびれや痛み、筋力低下
- 長い距離を歩けない
- 排尿・排便障害
間欠性跛行(かんけつせいはこう)
少し歩くと、足が痛くなったりしびれたりして歩けなくなりますが、少し休むと再び歩けるようになる状態を「間欠性跛行」といいます。姿勢を変えることで楽になり、自転車など乗れることが多いです。
主な原因は、腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症です。閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化により血管が細くなって血流が悪くなり、手足や足先に酸素や栄養が十分に行き渡らなくなる疾患です。